壷井 栄


そうめん ごはんが少し足りないといってはそうめん、お客がきたといってはそうめん


そうでなくても夏の夕食はそうめんですませるのが楽しかった。そうめんのゆで方は、


きびしく教えこまれる。一分のことで半味になる、湯加減一つで味を殺す、と云はれて

しつけられ島の女はうでるのが上手だ。


こんな風だから島の人間はもう、生れて百日もたつとそうめんの初すゝりをやらされる。


「百日の一粒食い」と同じようなつもりだろう。初めは一粒ほどの量を口に入れてやるのだ


が日がたつにつれて一センチが三センチほどになる口に入れてもらってつるつるすゝりこ


める赤ん坊はこの子は馬鹿でないと喜ばれる。こんなふうに、生れながら親しまれてきた


そうめんである。子供の日常語にまでそれはすゝりこまれて「ごめんなさい」と


いうのを「ゴメンソーメン」などという。



【婦人公論誌より】